1925・4・12 フランス・ヴェルサイユ

~孝吉の日記~

ベルサイユ
日。パンやハム、卵などの弁当持ちでVersailles[*ヴェルサイユ]へ川島さん夫妻[*川島理一郎・エイ]と出かける。絶好の天気。Invalides[*アンヴァリッド]の停車場から電車で行く。AlexanderⅢ[*アレクサンドル3世]橋附近、博覧会[*1]の用意をしてゐる。すぐ先に伊太利から帰て来た目には馬鹿らしい事のやうだ。Meudon[*ムードン]あたりの郊外住宅が美くしい。日曜でVersaillesは沢山の人出だ。大きな力強い羅馬建築などを見て帰た目にはpalace[*宮殿]もさう大しておおきくは見へなかった。庭の大きなのには一驚。無限の広さのやうだ。噴水の飾付彫刻など羅馬のもの程よくないが、フランス式に美くしい。池畔の草の上で弁当を食てうまかった。それからTrianon[*トリアノン宮殿]の方へ歩く。マロニエの林の美くしさ。のどかな休養の一日となった。Trianonには池や田舎家などがある。
引き返してchâteau[*宮殿]を見物する。見物人が多くて見るものはつまらない。戦争の歴史画なんど、一つもよいものは見当らなかった。こゝも一度で沢山だ。
夕、帰てSaint Michel[*サン・ミッシェル]通を散歩。restaurantも春景色になってtableを戸外に持出す。Luxembourg[*リュクサンブール]の公園もマロニエの新芽が萌へ出て目さむる心持がする。

【註】
*1 現代装飾美術・産業美術国際博覧会。「アール・デコ博」と呼ばれた。1925年4月28日に開会式が行われた。

上空から見たヴェルサイユ宮殿。庭園の広さに孝吉が驚くのも無理はない。敷地面積は約800ヘクタールと、甲子園球場200個分以上の広さを誇る。(孝吉がフランスで買った絵はがきより)

ディアーヌ噴水の向こうに見えるヴェルサイユ宮殿。孝吉訪問の6年前、第1次世界大戦講和のヴェルサイユ条約が調印された。その舞台となった鏡の間の天井には、ルイ14世の戦争での活躍などが描かれている。戦争画を嫌った孝吉は嫌悪感を抱いた。(同)

小トリアノン宮殿にある「王妃の村里」。マリー・アントワネットが好んで過ごしたとされる。(同)

小トリアノンの一角にある「愛の神殿」。新古典主義建築で、12本のコリント式の柱が円形の屋根を支える。(同)

小トリアノンにある「フランス館」(同)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次