1925・4・4 イタリア・ヴェネツィア

~孝吉の日記~

Venezia
土。曇雨。午前Ca’ d’Oro[*カ・ドーロ。黄金の館]へ行たが、修繕中で駄目。こゝにはチシアン[*ティツィアーノ]などのがある。それから近くのPalazzo Giovanelli[*ジョヴァネッリ宮]へ行く。十一時からだと云ふので、少し遠いMadonna dell’Orto[*マドンナ・デッロルト教会]へ尋ね尋ねて行く。橋を四つ五つも渡てやっと見あてる。中にはTintoretto[*ティントレット]、Adration of Golden Oxe[*《黄金の子牛の礼拝》]、La Fine de Mona[*1]、La Presentazione al Tempio[*《聖母の神殿奉献》]、などの五面程の大作がある。やはり偉大だ。深刻な空気におそはれる。
その他BelliniのMadonna[*2]もあった。
引き返してPalazzo Giovanelliへ行く。こゝにもよい画がかなり多い。Giorgione[*ジョルジオーネ]の美くしい作品[*《テンペスタ》とみられる]。これは前から複製で憧れてゐたものだ。暖かい楽園に男と裸婦。何といふ美くしさか。美くしい想像か。
その他Tintoretto二三、Titian[*ティツィアーノ]、など他にもよいものが少しある。Venezia 町は又、美くしい。橋の形がよい。balcon[*バルコニー]からのぞく女、赤[*「黒」の間違いか]や赤の毛糸肩懸には長い房が垂れてゐる。gondolaを漕ぐせんどうも遊ぶ。あまり美くしくない子供等もVenezia情緒をそゝる。
午後、Palazzo Reale[*(ヴェネツィア)王宮]の三階Museo archeologico[*考古学博物館]へ行てみたが、これも修繕中なので今度は川向ひのChiesa della Salute[*(サンタ・マリア・デッラ・)サルーテ聖堂]へ行く。一雨来る。この寺にはTintorettoの大作、Nozze di Cana(饗応の図)[*《カナの婚礼》]がある。天井とalter[*祭壇]にはTitianの画がある。その他数点。この寺を出てArsenal[*アルセナーレ。孝吉訪問時は造船所だった]の入口のAthen[*アテネ]から持ってきたといふlions[*3]を見に行く。四匹のライオンはがっちりとした作だ。雨が降るので宿に帰る。

【註】
*1 どの作品を指すか不明。
*2 《聖母子》。1993年に盗難に遭い、2025年4月現在、見つかっていない。
*3 4頭のライオン像は全て17~18世紀にギリシャから略奪された古代の彫刻で、うち3頭はアテネから運ばれたが、1頭はデロス島から持ち込まれている。

アテネの外港、ピレウスから略奪されてヴェネツィアへ運ばれた紀元前4世紀のライオン像(1925年4月4日)=撮影・大橋孝吉

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