1924(大正13)・12・17 メッシーナ海峡

~孝吉の日記~

Messina
だんだんと天気回復する。温度六十度[*華氏での表記。摂氏なら15.6度]
やがて多年憧憬した伊太利の半島が見え出す。
高い山の峯は雲が閉ざしている。
船は方向を北にとってSicily[*シチリア島]との間を行く。
日本のやうに山国ではあるが、やはり大陸的で山のoutlineが雄大によこたはり立体的である。富士の裾野のやうなlineが所々にあり、大きな河が山から海に流れ落る。山腹にも海岸にもちらちらと白壁、赤屋根の洋館が点在するのが小さく見える。Etna山は雲に閉されて見へない。メシナ[*メッシーナ。シチリア島北東部のまち]の沖を過ぐる頃、英国郵便船に追ひこさる。
ゲーテが嘆賞した伊太利。ジオットー[*ジョット]やマンテニヤ[*マンテーニャ]を生んだ伊太利。それにふさわしい深い大きな風景である。初めて見た伊太利。それは非常に美くしい印象を焼付けた。ルネッサンスの絵画に見る深い風景は人の造り事ではない事がわかった。
午後三時、Stromboliの噴火島の南側を通過。その雄壮なすりばち形のラバ[*溶岩]の流れ落ちた幾多の線は、素晴らしい風景とより云ふ事は出来ない。
夜、お名残りに仮装会が始る。川島氏はギリシャのNeptune、榮子[*エイ]さんがdoctor、私がどじょうすくひの娘に扮する。川島氏、一等に当選す。ヘンネケといふ独逸人の日本大工が二等。

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