1924(大正13)・12・10 紅海

~孝吉の日記~

夜より風あり。朝、風浪高く、砕け散る波頭、山のやうな大浪のうねりは南西より来りて船の左舷に押よせる。壮観なり。追手なる故、大しては船揺れず。右手の方に珍奇なる小島四、五を見る。
例に依て船長室へ行て遊ぶ。川島氏、しきに描く。午後、水泳す。
西の水平線下に真赤の太陽が落ちると、十五夜の名月は明るく銀波に砕く。国を遠く離れて行くを思へば夢幻の境を行く如し。水平線下にアラビアの砂漠を想像して感慨無量なり。
後甲板にて小concert開かる。小供など歌ふ。あまり面白からず。
船は絶へず北進す。紅海の大きなるは、日本に居て思った想像以上なり。

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