~孝吉の日記~
晴。朝からLouvre[*ルーブル美術館]へ行く。今日は光線がよいので明るく非常によく見えた。ボチセリー[*ボッティチェリ]、ルイニ[*ルイーニ]、マンテニヤ[*マンテーニャ]、ダビンチ、チチアン[*ティツィアーノ]、ヂオルジオネ[*ジョルジョーネ]、ドラクロア、クールベー[*クールベ]などさすがによいと思った。その深刻な空気は現実を去って神の世界に吾等を引きこむ。希臘彫刻にも元より感嘆さゝれて帰る。Egyptian Gallery[*エジプト展示室]はあひにく閉まってゐた。今日はLouvreの概念を得た。
午後、川島さん[*川島理一郎]に来てもらってLefranc[*ルフラン社。老舗の絵の具メーカー]へ絵具を買ひに行った。Lefrancが移転してゐるので仕方なしにRue Laffitte[*ラフィット通り]のヂウランルエル本宅[*デュラン=リュエル画廊本店]を訪ふ。これも近くに大きな普しん中で一時Étoile[*エトワール広場。現在のシャルル・ド・ゴール広場]の方へ移転との事。近所の画商一二を見てPrintemps[*プランタン。百貨店]の前を通りRue La Boétie[*ラ・ボエシ通り]の画商を見てあるく。Rosenbergのgallery[*ローザンベール画廊]を見る。立派なものが多く、ブラック、マチス、ピカソ、クールベー、ルノアール、ル―ソー、など好きだった。マチスの黄の静物、それはかなりの大作でよい出来で、今までマチスのこんなよい作は見た事がなかった。さすがは偉いと思った。Georges Bernheim[*ジョルジュ・ベルネーム画廊]を見る。ドラクロアーとコローのよいのがあった。Printempsへ立寄て帰る。雨がしぐれる。乗らんとする客が多いのでtaxiが一台もない。困てやっとの事でbusで帰る。夜、洋服の仮縫に行く。まだ出来てゐない。日本なら今は大晦日だが、そんな気もしない。
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