1925(大正14)・1・9 パリ

~孝吉の日記~

金曜。曇晴。曇りのチュイレリー、Concorde[*コンコルド]を一人歩いてPetit Palais[*パリ市立プティ・パレ美術館]を見る。陳列品のうちにはつまらないものが多いが、よいものもかなり沢山ある。ルドン、カリエール、ロダンの素描、シャバンヌの素描、ドニ、メナールなど。
特に感心したのはMillet[*ミレー]の小さいpaysage[*ペイザージュ。風景画]一枚、Rubensの小品、Delacroix[*ドラクロワ]小品数点、Courbet[*クールベ]油大作六七点。皆やはり天才といはれるものはdessin[*デッサン]堅実、色彩非凡、深邃しんすい[*奥深いこと]なのを見るとうれしくなる。
Rue Royale[*ロワイヤル通り]Galerie Druet[*ドリュエ画廊]の展覧会を見る。ビッセール[*ビシエール]、ギミ[*誰か不明]、ロート、などかなりの出来で、日本の現在の洋画にくらべてはやはりうまいと思た。

Avenue de l’Opéra[*オペラ通り]のDuval[*デュヴァル。大衆食堂]ひるめし。同じtableにフランスの紳士が坐り合して、よくわからない仏蘭西フランス語で話する。日本の事を色々聞いて愛想がよい。夜は川島さん[*川島理一郎]のところで第一回のすき焼の御馳走になる。奥さんのお手なみで中々うまい。岩田さん[*岩田豊雄]も一所だ。美くしくない部屋やアトリエなど川島さんが頻りに装飾して思ひがけなく美くしくなった。すっかり落着いて、フランスに居る心地せず。

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