~孝吉の日記~
午後、Musée Rodin[*ロダン美術館]へ行く。やはりRodinは偉大な作家である。近代にはまれな力と重さの所有者である。感覚的なところは古代彫刻に比しては卑近なようだが、それも鋭くて生きてゐるから生命を失はない。ローマ彫刻を見るやうな感がするよいものもあった。
Muse de la Méditation―Fragment du Monument de V. Hugo[*1]
Balzac[*《バルザック》]
L’Homme qui marche[*《歩く人》]
La Main de Dieu[*《神の手》]
Torse de Femme[*2]
その他、Rodin collectionとしてGreek、Roman、Egyptianのantique[*古物]、torso[*トルソ。胴体部の彫刻]、relief[*浮彫]、vase[*壺]などさすがによいものが沢山ある。
Rodinも古代に行かんとして努力し而もローマにさへも行けず、近代の人間であった事がよくわかる。
さすがEgypt、Greeceは偉大である。
庭にもRomanのtorsoが沢山並べてある。
ロダンの作以上のものと思ふ。中々よいものが雨うたしにしてある。夜はBoulevard Saint-Michel[*サン・ミッシェル大通り]の伊太利料理へ岩田さん[*岩田豊雄]の案内で行く。中々うまくて安い。それからPlace Blanche[*ブランシュ広場]のMoulin Rouge[*3]へ行く。ベルゼール[*フォリー・ベルジェール]と似てdecoration[*装飾]と女の肉体が美くしい。
【註】
*1 「瞑想のミューズ―ヴィクトル・ユゴーの記念像の部分」。現在、《瞑想》として知られる作品。1897年に《ヴィクトル・ユゴー記念像》の石膏製の群像として展示されたが、1909年完成の大理石の完成作品からは省かれた。
*2 「女のトルソ」。《若い女のトルソ》として知られる作品とみられる。
*3 ムーラン・ルージュ。フレンチカンカンで有名なキャバレー。1889年に開業し、広告ポスターを手掛けたロートレックは一躍有名になった。1915年に火災で全焼。孝吉が訪れた1925年は再興まもない時期だった。

孝吉が買ったムーラン・ルージュのパンフレットより。この日のショー演目は「ニューヨーク・モンマルトル」。ムーラン・ルージュ再出発に向けて、舞台監督ジャック・シャルル(左ページ上)が米国からガートルード・ホフマン(右ページ中央)率いる「ホフマン・ガールズ」を招いて手掛けた。パンフレットは大勢の出演者を顔写真入りで紹介している。