~孝吉の日記~
土曜日。晴。濃霧立ちこめる。午後、Louvre[*ルーブル美術館]のSalle du Mastaba[*1]、Galerie de Morgan[*2]を見る。Egypt、Chaldea[*カルデア。メソポタミア南東部]のsculptures[*彫刻]、antiquities[*古代遺物]の素敵なのが沢山ある。西洋美術の極致でしかも東洋の美術の唯心崇高を備へ、地味で美術家を悩殺する。あのinscription[*碑文]の一つのかけらさえも、後世の精神から離れた大作より吾々にとっては価値が高い。本館のCéramique Antique[*古代陶磁器]が今日は開かれてゐるので見る。多くは希臘のものでvase[*壺]が沢山あるのには驚く。あの美くしいものが棚の中に無数に行列してゐる。何と云ても吾等の求めるものはantique[*古代]の精神である。
少しばかりのPompeii[*ポンペイ]の壁画も美くしい。
晩は本名さん[*本名文任。妻の蝶も一緒だったとみられる]と川島さん[川島理一郎・エイ]のところで御馳走になる。
本名さんが他の家へ引越したので、hotel[*Hôtel Récamier]は自分一人になった。
【註】
*1 マスタバ室。マスタバは古代エジプトの墓の一形式。サッカラ出土のアケトヘテプのマスタバが展示されている。
*2 モルガンの陳列室。フランスの考古学者、ジャック・ド・モルガン(1857~1924)らが発掘を手掛けたイラン南西部の古代都市スーサの出土物を展示していた。