~孝吉の日記~
火曜。曇。
午前は室からSaint-Sulpice[*サン=シュルピス教会]を見たところをスケッチ板に描く。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]のSalle des Saisons[*四季の部屋]、Salle d’Auguste[*アウグストゥスの部屋]の羅馬彫刻を見る。希臘彫刻とは[*より]大分、自然の外形に走るが、やはり大きい所はある。三階[*現地表記では2階]のCamondo Collection[*1]を見る。painture moderne[*現代絵画]の中にドガ、マネ、モネ、ドラクロア、セザンヌ、ゴッホ、ルノワールなどある。ルノワール、ゴッホ、セザンヌは何といっても偉い。セザンヌは最近芸術運動の先駆者である。しかしセザンヌは自然の実在を描いた。マチス、ピカソ、ドラン、ブラック、デュフィなどはもっと自由に、原始的な人間が見たありのまゝの自然を描かうとしてゐる。セザンヌより一歩先へ進むところにセザンヌ以後の運動の意義と完成があると思ふ。
夜は川島さん夫妻[*川島理一郎・エイ]とRue Cels[*セル通り](モンパルナス)の本名さん[*本名文任・蝶]のお家で移転の御馳走になる。
沢山食べてうまい。
【註】
*1 カモンド・コレクション。銀行家で美術コレクターのイザック・ド・カモンド(1851~1911)がルーヴル美術館に遺贈し、1914年に公開された。同美術館には当時、作家の没後10年を経た作品でないと所蔵しない慣例があったとされ、印象派やポスト印象派の画家の作品展示が話題を集めた。