1924(大正13)・12・22 パリ

~孝吉の日記~

晴。朝、本名さんと近くのSt.Germain[*サンジェルマン]通りをうろつく。本屋が沢山あって自分等にとって都合がよい。晝食ちゅうしょくは皆でSorbonne[*ソルボンヌ大学]近くの支那料理を食べに行く。うまい。
Sorbonne大学医科大学の堂々たる美くしい建築に驚き又Panthéon[*パンテオン]の大きさに感心。すっかりお上りさんのやうに何を見ても嘆賞の声を発せずにはいられない。Luxembourg[*リュクサンブール]公園を通り抜ける。かわいい子供が沢山遊んでいる。13.Rue des Feuillantines[*フイヤンティーヌ通り]の岩田豊雄[*後の小説家、獅子文六]氏の寓居を訪ねて茶をよばれる。
それよりbusとタクシーで劇場Folies Bergère[*フォリー・ベルジェール]に行く。切符を買て又Boulevard des Italiens[*イタリアン大通り]を散歩。いつもながらの文明の賑やかさだ。あるcaféで一休して又歩く。
Restaurant Duvalで晩餐。安い。
Folies Bergèreに入る。装飾、畫色さん然としている。九時開幕。休みなしに演ぜられる。衣裳やバックの美くしさ。美くしいdancerの肉体の運動美。人を魅惑させずにはおかない。現世の歓楽の限りをつくした感がある。偉大なる宗教的感激に比して物質の歓楽の如何に低きとはいへ、それが又一つの強い力を持つ事は否む事は出来ない。又これを他にしては巴里の一面を解する事は出来ないと思ふ。
幕間にトルコ女のdanse du ventre[*ベリーダンス]を見る。それから又沢山の美くしい幕を見る。天井で太鼓がなったり沢山の女が水の中へ入り込んで行ったり、肝を抜かれたようであ然として見るばかりだ。
十二時、タクシーでhotelに帰る。

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