1925・4・26~27 パリ

4・26

~孝吉の日記~

日。曇。午後、Bois de Boulogne[*ブーローニュの森]へ行く。池畔を歩む。日曜で人が楽しげに歩む。新緑樹間に草花美くしく咲いて、池水春風にゆらぐ。ボートに乗る男女あり、喃々なんなんと語り行く者あり、自働車を飛ばす者あり。広いBoisの春は冬来た時と雲泥の差がある。
夜は初めてNational Grand Opéra[*国立グランド・オペラ]へ行く。今日はThaïs[*『タイス』]だ。Opéraの建築はさすがに重みがあってこの種の建築では第一だらうと思ふ。vestibule[*ロビー]、balcon[*バルコニー]、殊に紫色の燈火で彩られたbalconからAvenue de l’Opéra[*オペラ通り]の自働車の走るのを見下す時、巴里でなくて見られない景色だ。又、見物人の夜会服が見ものの一つだ。さすが一流で、musique[*音楽]もdanse[*踊り]も俳優の声も悪くない。殊にThaïsになった女Berthon[*ミレイユ・ベルトン]は美くしい肉体の所有者だった。

国立音楽舞踊アカデミーが発行したこの日のパンフレット

『タイス』の作曲者ジュール・マスネ(1842~1912)の写真と、この日の配役

タイス役を務めたソプラノ歌手のミレイユ・ベルトン(1889~1955)=上

4・27

~孝吉の日記~

月。朝、運送屋や郵便局へ川島さん[*川島理一郎]に来てもらう。午後、Rue Gabriel Lame[*ガブリエル・ラメ通り]のdouane[*税関]羅馬ローマからの小包について尋ねに行く。

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