1925・5・9~11 パリ

5・9

~孝吉の日記~

土。午後、Billancourt[*ビヤンクール]へ油[*油絵の道具]を持って出かける。思ふやうに行かない。

5・10

~孝吉の日記~

日。晴、雨。何になるのか、どこもフランスの国旗が出る[*1]。午前、昨日の油[*油絵]に手を入れる。
午後、Panthéon[*パンテオン]からLuxembourg[*リュクサンブール]公園を歩く。
マロニエの花盛りは軟らかい清新を表はす。青い葉の軟らかさ。男、女、子供、皆楽しく遊ぶ。草花は咲き乱れ、倚子いすにいこふ女の春衣は目さむる心持す。

【註】
*1 5月の第2日曜で、ジャンヌ・ダルクがオルレアンを解放した1429年5月8日を記念した「ジャンヌ・ダルクと愛国心の祝日」だった。列聖された1920年に祝日に定められている。1925年は選挙の投票日と重なり、民族主義者と他団体との衝突の可能性があるとして政府が行進を禁じた。100年後の現在、極右が集結する日ともなっている。


5・11

~孝吉の日記~

月。快晴。午前、銀行へ行く。
午後、Billancourtへ写生に行く。十号油一枚描く。帰りがおそくなったので、汽船がAuteil[*オートゥイユ]で止る。taxiで帰る。

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