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1925・2・10 イタリア・ヴェネツィア
~孝吉の日記~火曜。曇。朝、九時四十分Milano発にて立つ。平原を西へと走る。単調だが趣のある風景が迎えて去る。遠いéglise[*教会]の鐘楼と立杉[*糸杉]、畑、田舎家、耕す人、羊、葉の落ちたみき、朝霧に霞む。VeneziaVerona、Vicenza[*ヴィチェンツァ]、Padovaを過ぎてVeneziaに午後三時着。途中はのどかな村だ。Veneziaはお上りの行くところ、きたない所といふ人があるが、そのきたない所に自分は永い歴史と美くしさを見る。停車場からgondolaに乗てユラユラとゆられ両岸のCasa何々[*何々の家]、... -
1925・2・9 イタリア・ミラノ
~孝吉の日記~月曜。快晴。朝から早速Santa Maria delle Grazie[*サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会]へtaxiで行く。Da VinciのLast Supper[*《最後の晩餐》]、それを古びた一面の壁に奥深く見た最初の印象は忘れる事の出来ない喜びだった。多年の憧が今、目の前にあるのだ。破そんされたと人は云ふがやはり美くしくてDa Vinciの人格に接する事が出来る。何といふ美くしい色調か。落ついた静かさ奥深さか。もうこれ以上を書かない。横に美くしいfrescoesを以て装飾されたcloister[*1]がある。あの... -
1925・2・7~8 パリ―車窓のスイス―イタリア・ミラノ
2・7 ~孝吉の日記~伊太利行種々旅行の準備をする。夜九時二十分、expressでGare de Lyon[*パリにあるリヨン駅]出発。同行、岩田豊雄氏。川島さん[*川島理一郎]、柏村さん[*柏村次郎]が送て下さった。Dijon[*ディジョン]を過ぎてSwissの国境にかゝると地には薄雪が積ている。 2・8 ~孝吉の日記~passportをしらべ、荷物は見ずにすむ。だんだん汽車は下りてLausanne[*ローザンヌ]を過ぎる。南にLéman湖が見え、その岸を走る。青くすき透た水面にはさゞなみがうちよせる。向側には大きな岸山が... -
1925・2・1~6 パリ
2・1 ~孝吉の日記~日。岩田さん[*岩田豊雄]と伊太利へ行く事にする。 2・2 ~孝吉の日記~月。伊太利語の本など見て過る。 2・3 ~孝吉の日記~火 2・4 ~孝吉の日記~水 2・5 ~孝吉の日記~木。Thomas Cook[*トーマス・クック。旅行会社]へ行って、Milan、Venice、Florence経Rome迠=88fr)。列車席のreserve[*予約]をする。岩田さんとRome迠一所に行ってRomeで別れ、川島さん[*川島理一郎・エイ]の来るのを待つ事にする。多年憧れて居た美術の伊太利を見る機会が来た事を喜ぶ。 2・... -
1925・1・26~31 パリ
1・26 ~孝吉の日記~朝からItalian[*イタリア語]のABCを始る。面白くもないが、古代芸術が見たいばかり―。午後、Opéra方面へ用たしに行く。 1・27 ~孝吉の日記~火。朝、水彩を一枚失敗。午後、岩田[*岩田豊雄]、柏村さん[*柏村次郎]が見えた。 1・28 ~孝吉の日記~水。朝、水彩の花を描く。午後、散歩。夜は本名氏[*本名文任]訪問。 1・29 ~孝吉の日記~木。水彩の花を描く。 1・30 ~孝吉の日記~金。午後、Jardin des Plantes d’Orléans[*1]を散歩。川島さん夫妻[*川... -
1925(大正14)・1・25 パリ
~孝吉の日記~日曜日。晴。午後、川島さん[*川島理一郎]とBois de Boulogne[*ブーローニュの森]へ行く。Etoile[*エトワール駅]でMétroを下りてAvenue de Boulogne[*ブーローニュ通り]を歩く。日曜で沢山の人出である。可愛い小供をつれる人が多い。Boisの口から馬車に乗って行く。Lakeの端を通る。ボート漕ぐ者、水に浮くcanard[*アヒル]、喃喃と語って行く男女。皆、平和だ。冬枯の木立にポプラが天を突いて立つ。春から夏の楽しさを思わせる。茫漠としたHippodrome de Longchamp[*ロンシャン... -
1925(大正14)・1・24 パリ
~孝吉の日記~曇。土曜日。室内で小さいスケッチを始る。夜は岩田さん[*岩田豊雄]、柏村さん[*柏村次郎]など見えて晩飯。後、トランプをして遊ぶ。 ■岩田豊雄と柏村次郎 フランスで演劇の研究に打ち込んだ岩田豊雄(後の作家、獅子文六)は、ドイツの演劇も覗いておこうという気になる。だが、ドイツ語はとんと分からない。「誰かの世話にならなければ、芝居歩きもできない」。そう思っていたところに紹介されたのが、ドイツにいた柏村次郎だった[*1]。 次郎は1893(明治26)年、東京に生まれた... -
1925(大正14)・1・20~23 パリ
1・20 ~孝吉の日記~火。今日もLouvre[*ルーブル美術館]へ行く。川島さん[*川島理一郎]に来てもらって夕暮、Pont Neuf[*ポン・ヌフ。セーヌ川に架かる橋]端の洋服屋へ仕事洋服を買ひに行く。大きな店でstock[*在庫]の豊富なのに驚く。仕事着150fr。廿三円位。 1・21 ~孝吉の日記~水曜。朝から銀行へ行く。 1・22 ~孝吉の日記~木曜。晴。ConcordeのMusée du Luxembourg[*1]を見る。外国の絵ばかりで見るべき物がない。つまらないものばかりだ。午後、Louvre[*ルーブル美術館]へ... -
1925(大正14)・1・19 パリ
~孝吉の日記~月曜日。Barbazanges[*バルバザンジュ画廊]のPeintres-Graveursの展覧会[*1]を見る。Vlaminck[*ヴラマンク]、Dufy[*デュフィ]などうまい。 【註】 *1 独立版画家協会の第3回グループ展。同協会はデュフィらが版画の地位向上を目指して1923年に発足し、ピカソやヴラマンク、シャガール、長谷川潔らも参加した。35年に解散。 孝吉がこの日入手した独立版画家協会の第3回グループ展目録。冒頭には、デュフィが若いころに木版挿絵の機会を設けたことがある親友の詩人・小説家... -
1925(大正14)・1・18 パリ
~孝吉の日記~日曜。Louvre[*ルーヴル美術館]へ行く。Renaissanceの油絵を見る。フランスの十五六世紀にもよい画をふるう人》]Courbet His Studio [*《画家のアトリエ》] Spring [*8] Wounded Man [*《傷ついた男》] Fight between Stags 鹿 [*《牡鹿の闘い》]Poussin Diogenes casting away his cup [*《鉢を投げ捨てるディオゲネス》] Apollo and Daphne [*《アポロンとダフネ》...