1924(大正13)・12・20 マルセイユ―パリ

~孝吉の日記~

朝餐をすまして九時廿五分発のrapid[*急行列車]にて出発す。晴。南欧の景色は暖かでのどかである。色彩の濃厚な南洋を通って来た眼には、朝もやのかかった景色は灰色に見へた。
Alres[*アルル]、Avignon[*アヴィニョン]などを通って北進す。
Rhône河[*ローヌ川]にそって行く頃、曇って一面に霧が立ち込め、うすら寒い景色となる。Lyon[*リヨン]へ着いたのは三時半。もう夕暮れとなって、日の短いのに一驚。松方氏はスイスへスキーをやりに、堀氏は正金[*横浜正金銀行]へつとめる為、下車。一人一人と日本人が減てゆく。汽車は速力が速いので随分揺れる。
晩餐もWagon Restaurant[*国際寝台車会社の食堂車]にてすます。
Paris
ParisのGare de Lyon[*パリの主要ターミナル駅の一つ、リヨン駅]へ着いたのは十時半。
岩田氏が出迎に見へる。予定のHôtel de Niceという安宿は代が替ったとかいふので、今夜はHotel Lutetiaに泊る。
落着いたよいhotelである。

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