~孝吉の日記~
未明、シンガポール出帆。両岸の景色美はし。
マラッカ
曇。スマトラとマレー半島の間を走る。午後三時、マラッカ着、上陸。やはり強烈なる色彩、熱帯美を発輝す。古代城門を見、丘上の城趾を見る。景色佳なり。夕に沈みゆく町の河、緑のベールに覆はれたる如し。町暮れて灯火点々、河水にあり。夏なり。横町に入りて印度サラサを買ふ。赤色古雅にして美くし。
黒暗のうちにランチ[*上下船に使う小型船]に乗うつり帰船。西洋の若き女等、唱うて情調あり。隅田の川開き納涼舟の如く、ゆらゆらと行く。煙、火となって海に落つ。
土人町、ここにもうら盆の情調あり。
この日、晩餐に名産のマンゴ果実を食ふ。美味なれども瓜の香、鼻につく。
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