~孝吉の日記~
暴風。Orsanmichele[*オルサンミケーレ教会]の中は中々よい。
Orcagna[*オルカーニャ]のreliefがある。外面にVerrocchio[*ヴェロッキオ] 、Donatello[*ドナテッロ]、Lor.Ghiberti[*ロレンツォ・ギベルティ]の作品、Christ、St.John[*聖ヨハネ]などの像がある。それからS.Lorenzo[*サン・ロレンツォ教会]へ行く。内部建築は悪くない。例のMedici[*メディチ家]の墓のある堂はMichelangeloの設計でよい。
Mediciの像や月と日[*彫刻《夜》と《昼》]もよい。それでも埃及や希臘のよい彫刻のやうには感心しない。
Accademia di Belle Arti[*1]に入る。第一に正面にMichelangeloのDavid[*ダヴィデ像]が堂々と立つ。
さすがに大作だ。その他、未成の大理石像が三つ四つある。偉大な力がせまる。こゝでMichelangeloにも感心。絵画としてPrimitive Italia [*2]の宗教画が相当沢山ある。相当よいものだが第二流の作が多い。少々こう云ふ宗教画に飽きざるを得ない。
近くのArchaeological Museum[*考古学博物館]へ行く。随分沢山ある。埃及、希臘、Etruscan[*「エトルリア」の意味で使っている]などのものばかりで中々よい。壺も多い。労れて馬車で帰る。
Fiesole[*フィエーゾレ]
午後、Duomo[*ドゥオーモ]の前から北山のFiesoleへ行く。
うすら曇で烈風。Firenzeの町を望んで見晴しのよい丘を曲って登て行く。Fiesoleはancient Etruscan[*古代エトルリア]の町だった。今その発掘がされた。
十二才の子供がguideをやってくれる。Franciscan Monastery[*サン・フランシスコ修道院]を見る。Filippino Lippi[*フィリッピーノ・リッピ]の絵が一枚ある。僧が愛想がよいが、つまらない陳列を見せてくれて有難迷惑。それから発掘のMuseo[*考古学博物館]を見る。小さいが、やはり昔のものはよい。Theatro Romano[*ローマ劇場]もThermae[*浴場]も大きくはないが、archや階段、柱、などよい建築美を残す。近代の飾の多いに較べて昔のものは美だ。スケッチを一二枚して帰る。
町へ帰て夕食にPalazzo Vecchio[*ヴェッキオ宮殿]横のGanzoと云ふ小さいristoranteへ入る。その内部はRoman古城跡のようで装飾もarchaic[*古風で素朴]な古雅で珍らしくよい。Dante時代からある歴史付の家らしい。岩田さん[*岩田豊雄]もやっとわからない伊太利語を出たらめで通す。
いつもながらアルノ河畔、Ponte Vecchio[*ヴェッキオ橋]の夜景、Danteの古に復る如く、河畔の築土によってギタひく歌聞へて無量。燈火、河水にありて静かなり。
【註】
*1 美術学校。付属してアカデミア美術館がある。
*2 正しくは「primitivi italiani」(イタリア語)、「Italian primitives」(英語)。ルネサンスの礎が築かれた14~15世紀頃のイタリア美術とその芸術家たちを指す。最近は「プロト・ルネサンス」「プレ・ルネサンス」とも呼ばれる。

フィエーゾレのローマ劇場(1925年2月15日)=撮影・大橋孝吉

孝吉が買って帰ったフィエーゾレ・ローマ劇場の絵はがき