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1925(大正14)・1・7 パリ
~孝吉の日記~晴。水曜。朝から美術学校近くで絵の道具を買ふ。422fr。それからbain[*銭湯]へ行く。2fr70。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]の続きのMusée des Arts Décoratifs [*装飾芸術美術館]を見る。中々沢山ある。古代ぎれのよいものが沢山ある。近代絵画の中にはMillet[*ミレー]、Corot[*コロー]、Delacroix[*ドラクロワ]等のよい作品がある。 -
1925(大正14)・1・6 パリ
~孝吉の日記~快晴。火曜。朝からcoiffeur[*床屋]へ行く。午後Musée de Cluny、[*クリュニー美術館]へ行く。陶器の美くしいのが好きだった。Sorbonne[*ソルボンヌ]大学の講堂のChavannes[*シャヴァンヌ]の壁画を見せてもらう。静かに落着いたよい作だと思た。やはり大家だ。Cézanne[*セザンヌ]のやうに時代の先鋒ではないが。Rue de la Sorbonne[*ソルボンヌ通り]に安い画室付のよい部屋があったので川島さん[*川島理一郎]がけい約する。すぐ隣のbillard[*ビリヤード場]へ入る。岩田[*... -
1925(大正14)・1・5 パリ
~孝吉の日記~快晴。朝からbankへ行って帰りにAvenue de l’Opera[*オペラ通り]の本屋へ立寄る。午後、Galerie Marcel Bernheim [*マルセル・ベルネーム画廊]でVan Gogh[*ファン・ゴッホ]の展覧会を見る。dessin[*デッサン]、色彩共にやはり天才だと思はしめる。夜、Chartier[*シャルティエ。大衆食堂]へ行たが満員なので又Duval[*デュヴァル。大衆食堂]で飯を食ふ。Boulevard St.Germain[*サンジェルマン大通り]のcinema[*映画館]に入る。撮影奇抜で面白い。昔のアメリカの列車の光景は... -
1925(大正14)・1・4 パリ
~孝吉の日記~日曜日。曇。川島[*川島理一郎]さんとLloyds Bank[*ロイズ銀行]へ金を出しに行く為busに乗たが、銀行が日曜で駄目な事を思ひ出した。オペラ前からMadeleine[*マドレーヌ]へ歩く。どの店も皆戸を閉程で皆満腹する。Boulevard Madeleine[*Boulevard de la Madeleine。マドレーヌ大通り]、Italiens[*Boulevard des Italiens。イタリアン大通り]などを歩いて帰る。 -
1925(大正14)・1・3 パリ
~孝吉の日記~雨、後、晴。土曜。朝から一人でLouvre[*ルーヴル美術館]へ行く。チチアン[*ティツィアーノ]、チントレット[*ティントレット]のスザンナ[*《水浴のスザンナ》]、レンブラントなどの色彩に見とれる。一般に昔の絵は暗いが深い。近代の画Primitiveの画を見ると一層精神的で、小さな画面に敬虔な自然が広がる。アンゼリコ[*アンジェリコ]、ジオット、等…同代の他の巨匠などの画を見るとRenaissance全盛の天才さへも低く見える。午後、二階の開くのを待て入る。ルイ式[*ルイ王朝様式]... -
1925(大正14)・1・2 パリ
~孝吉の日記~金曜。雨。風あり。手紙を書く。どこへも行かず。晩餐は食料店でhors-d’œuvre[*オードブル]のサラド、ブール[*フランスの伝統的なパン]、ロチ[*ロティ。ロースト肉]、ソーセージなど買てきて食ふ。中々うまい。 -
1925(大正14)・1・1 パリ
~孝吉の日記~晴。木曜日。人は皆、新たな服を着て、église[*教会]へお参りする人もある。巴里は休日で静かである。しかし自分等は少しも正月元旦のやうな気分がしない。朝から洋服屋へ行って仮縫を着てみる。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]へ行く。休日で、ferme aujourd’hui[*本日休館]としてある。し方なしにBoulevard St.Germain[*サンジェルマン大通り]の写真屋でEgypt、Greeceのarchaic[*アルカイック期]などの建築彫刻写真百枚程買ふ。素敵なものばかりなんだ。350F(53円)程になる... -
1924(大正13)・12・31 パリ
~孝吉の日記~晴。朝からLouvre[*ルーヴル美術館]へ行く。今日は光線がよいので明るく非常によく見えた。ボチセリー[*ボッティチェリ]、ルイニ[*ルイーニ]、マンテニヤ[*マンテーニャ]、ダビンチ、チチアン[*ティツィアーノ]、ヂオルジオネ[*ジョルジョーネ]、ドラクロア、クールベー[*クールベ]などさすがによいと思った。その深刻な空気は現実を去って神の世界に吾等を引きこむ。希臘ふ。これも近くに大きな普しん中で一時Étoile[*エトワール広場。現在のシャルル・ド・ゴール広場]の... -
1924(大正13)・12・30 パリ
~孝吉の日記~火曜日。雨。朝よりMusée de Cluny[*クリュニー美術館]を見る。十三世紀頃より十八世紀の間の中世の物ばかりである。室が陰気で基督芸術の煩雑、暗陰さがおそう。EgyptやAssyriaなどの明快な力強さ、偉大なる芸術に比して数段、頽廃はまぬかれない。しかし、さすがは古代の芸術で大きいところはある。中にも十三四世紀の石彫建築の装飾など我藤原朝の石仏を思ひ出さしめ又Roman Antique[*ローマの古代美術]精神も存して偉大であった。Muséeの庭にもgothic[*ゴシック様式]の石彫の破片や、... -
1924(大正13)・12・29 パリ
~孝吉の日記~快晴。月曜日。朝からLloyds and National Bankへ行く。帰りOpéraから歩く。種々の店をのぞいて、セイヌ川端のBon Marché[ボン・マルシェ。百貨店]をあさって帰る。午へよせてもらう。一家皆愛想よくもてなされるのはうれしかった。壁には沢山の現代画がかけられて大なる展覧会のやうである。中にもルノアールの二点、フリエース、マイヨール彫刻など、この位のよい出来は日本へは来ない。外にマチス、ブラマンク、カモアン、オットマン、マルケなど出来のよいのが多かった。美術複製など取り出さ...