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1925(大正14)・1・17 パリ
~孝吉の日記~土曜。朝はくたびれて寝ぼうをする。午後、Musée Moreau[*ギュスターヴ・モロー美術館] を見に行く。技巧があって大家である。しかし、あの夢のやうな世界、センチメンタルな空気はあまり好きではない。ドラクロアやミレーのやうには有難くない。 -
1925(大正14)・1・16 パリ
~孝吉の日記~金曜。曇。小雨。Musée Moreau[*ギュスターヴ・モロー美術館]へ行ったが閉てゐるのでLouvre[*ルーヴル美術館]へ行く。十八九世紀から近代のフランスの画を見る。ゆっくり見てゐるとPoussin[*プッサン]の画の自然の深い美くしさに惹かれる。Milletを育てたある分子が見出される。それからMilletの穂拾い[*今では《落穂拾い》と訳される]、Delacroix[*ドラクロワ]のドンファンの難船[*フランス語読みで《ドン・ジュアンの難破》とも訳される]、Courbetの森の争鹿[*《牡鹿の闘い》... -
1925(大正14)・1・15 パリ
~孝吉の日記~木曜。正午、Hôtel Récamier[*オテル・レカミエ]からRue de la Sorbonne[*ソルボンヌ通り]のHôtel Rollin[*オテル・ローラン]へ引越す。Récamierには廿日間程しかゐないが、それでも名残が惜まれる。今日から川島さん[*川島理一郎・エイ夫妻]の部屋とつゞきになる。あまり美くしくないが、部屋代が安い。小さいアトリエが付いてゐる。 -
1925(大正14)・1・14 パリ
~孝吉の日記~午後、Musée Rodin[*ロダン美術館]へ行く。やはりRodinは偉大な作家である。近代にはまれな力と重さの所有者である。感覚的なところは古代彫刻に比しては卑近なようだが、それも鋭くて生きてゐるから生命を失はない。ローマ彫刻を見るやうな感がするよいものもあった。 Muse de la Méditation―Fragment du Monument de V. Hugo[*1] Balzac[*《バルザック》] L’Homme qui marche[*《歩く人》] La Main de Dieu[*《神の手》] Torse de Femme[*2]その他、Rodin col... -
1925(大正14)・1・13 パリ
~孝吉の日記~火曜。曇。午前は室からSaint-Sulpice[*サン=シュルピス教会]を見たところをスケッチ板に描く。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]のSalle des Saisons[*四季の部屋]、Salle d’Auguste[*アウグストゥスの部屋]の羅馬で移転の御馳走になる。沢山食べてうまい。 【註】*1 カモンド・コレクション。銀行家で美術コレクターのイザック・ド・カモンド(1851~1911)がルーヴル美術館に遺贈し、1914年に公開された。同美術館には当時、作家の没後10年を経た作品でないと所蔵し... -
1925(大正14)・1・12 パリ
~孝吉の日記~月曜日。朝から霧が深くてうすら寒い。午後、川島さん[*川島理一郎]とGalerie Barbazanges[*バルバザンジュ画廊]へ行く。Utrillo[*ユトリロ]の展覧会である。味のある地味な落着いた画で、よい感じの展覧会である。中々うまいと思た。それからRue La Boétie[*ラ・ボエシ通り]の画商を見て歩く。ある店の窓でRenoir[*ルノワール]の素描に赤い色彩のよい作を見る。又Rosenberg[*ローゼンベール画廊]でマチス、ブラック、ピカソなどに感心する。Galerie Druet[*ドリュエ画廊]で或... -
1925(大正14)・1・11 パリ
~孝吉の日記~日曜日。晴。朝から一人でMusée Rodin[*ロダン美術館]へ行ったが、午前は閉って居るのでTrocadéro[*1]へ行く。陳列品の多くは中世の彫刻の複製でつまらない。中世基督芸術の陰鬱、煩雑はあまり好きでない上、それがreproduction[*複製]なのでいやな物ばかりである。Cambodia[*カンボジア]、Indochina[*インドシナ]のものに少しoriginal[*原物]があるけれど、それも末期のものが多い。午後になるのを待ってMusée Guimet [*2]へ行く。こゝは思てゐたより立派なcollectionで、... -
1925(大正14)・1・10 パリ
~孝吉の日記~土曜日。晴。濃霧立ちこめる。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]のSalle du Mastaba[*1]、Galerie de Morgan[*2]を見る。Egypt、Chaldea[*カルデア。メソポタミア南東部]のsculptures[*彫刻]、antiquities[*古代遺物]の素敵なのが沢山ある。西洋美術の極致でしかも東洋の美術の唯心崇高を備へ、地味で美術家を悩殺する。あのinscription[*碑文]の一つのかけらさえも、後世の精神から離れた大作より吾々にとっては価値が高い。本館のCéramique Antique[*古代陶磁器]が今日は... -
1925(大正14)・1・9 パリ
~孝吉の日記~金曜。曇晴。曇りのチュイレリー、Concorde[*コンコルド]を一人歩いてPetit Palais[*パリ市立プティ・パレ美術館]を見る。陳列品のうちにはつまらないものが多いが、よいものもかなり沢山ある。ルドン、カリエール、ロダンの素描、シャバンヌの素描、ドニ、メナールなど。特に感心したのはMillet[*ミレー]の小さいpaysage[*ペイザージュ。風景画]一枚、Rubensの小品、Delacroix[*ドラクロワ]小品数点、Courbet[*クールベ]油大作六七点。皆やはり天才といはれるものはdessin[*デ... -
1925(大正14)・1・8 パリ
~孝吉の日記~木曜。晴。中々寒い。川島さん[*川島理一郎]が18 Rue de la SorbonneのHôtel Rollin[*オテル・ローラン] へ移るので荷物など手つだう。大したものではないが、画室付で月に400f。安い。午後、Panthéon[*パンテオン]見物。名高いChavannes[*シャヴァンヌ]の壁画は全体静かな構図でやはりうまい。装飾として写実派よりもよく建築と調和して居る。建築もローマなどの摸倣ではあるが大きな柱が連立する所、痛快、清じょうである。おのぼりの団体となって地下のtombeaux[*墓]参拝。...