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1924(大正13)・12・18 ボニファシオ海峡
~孝吉の日記~快晴。気候爽快。午後、Corsica[*フランス・コルシカ島]とSardinia[*イタリア・サルデーニャ島]の間を通る。岩山なり。Bonifacio[*ボニファシオ。コルシカ島南端のまち]の断崖が海に切立つ。雲の奥には高山が雪を頂いてそびえる。海峡を通過してコースを北西にとる。夕焼、Corsicaの雲と連山とを照して赤く染める。荘厳なる風景におどろく。夕より風あり。船、縦に動揺す。明日はMarseille[*マルセイユ]。Louvre[*ルーヴル美術館]の中に自分を見出す日も近い事となった。一生のうれ... -
1924(大正13)・12・17 メッシーナ海峡
~孝吉の日記~Messinaだんだんと天気回復する。温度六十度[*華氏での表記。摂氏なら15.6度]。やがて多年憧憬した伊太利の半島が見え出す。高い山の峯は雲が閉ざしてゐる。船は方向を北にとってSicily[*シチリア島]との間を行く。日本のやうに山国ではあるが、やはり大陸的で山のoutlineが雄大に横はり立体的である。富士の裾野のやうなlineが所々にあり、大きな河が山から海に流れ落る。山腹にも海岸にもちらちらと白壁、赤屋根の洋館が点在するのが小さく見える。Etna山は雲に閉されて見へない。メシ... -
1924(大正13)・12・16 地中海
~孝吉の日記~未明、Crete島の沖を通る。一天曇りて雨。東北風強く、寒さ加はる。こゝ四日程の間にかくも気候が変る事は不思議なり。冬服を着る。出立以来の初めての雨らしい雨なり。海荒れて怒濤舷側にもり上り、山の如くたける。白泡を立てゝ動揺する所、雄壮。船、左右に動揺す。これが希臘の沖。昔より幾多の神話を残した海。Homer[*ホメロス]のオデシイ[*オデュッセイア]の難破を思ひ出す。 -
1924(大正13)・12・15 地中海
~孝吉の日記~曇。地中海を進む。波静かなり。一の島をも見ず。非常に涼しくなる。今から思ふと熱帯地方の暑さは不思議な感がする。夜、chief officerの所で話す。 -
1924(大正13)・12・14 カイロ―ポートサイド
プレビューの表示 ~孝吉の日記~快晴。午前中にカイロの素通りをやる。 時 Get up 5,30 Start 6,30 arrived dead city 6,50 〃 7,10 〃 Pyramids 7,35 〃 8,10 〃 Mohamed Ali 8,40 〃 9,10 〃 Rifai Mosque 9,20 〃 9,40 〃 ... -
1924(大正13)・12・13 スエズ―カイロ
~孝吉の日記~朝よりGulf Suezに入る。両岸に山あり。広漠たるアラビヤ砂漠とサワラ[*サハラ]砂漠なり。西方、アフリカの沿岸の雄大なるoutlineを持った断崖の連続は素晴らしい風景を作る。その色は代赭氏、万事手はずよく導かる。波止場にはスエズ案内の土人が日章旗を持って出迎へる。港から汽車ですぐ近くのSuezの町に下車。日の丸の旗に導かれて、お登り旅行を始る。町は美くしからず。土人はシンガポールのそれよりも欧州人種の混合によってか自覚せる如く、そのどう猛な精神によって強い何ものかを心の... -
1924(大正13)・12・12 紅海
~孝吉の日記~晴。 -
1924(大正13)・12・11 紅海
~孝吉の日記~晴。朝より関根船長の室で雲と海の油[*油絵]を習作す。龍巻が起たと云ふので後甲板へ行けばもう消へた後だったので残念だった。尚、陸地見へず、紅海の広いのを感ず。海波静まりて油の如くなり。夜、十五夜の名月なり。波と大空、斯くも神秘雄大なる景色は他になし。身、他界にある如く天国を行く。ホーマーもキリストも、ゲーテも眺めた月を今、紅海に見る。痛快なり。唯素晴らしい大空とより云ふ事が出来ない。甲板に長倚子取り出して夢心地して眠る。 -
1924(大正13)・12・10 紅海
~孝吉の日記~夜より風あり。朝、風浪高く、砕け散る波頭、山のやうな大浪のうねりは南西より来りて船の左舷に押よせる。壮観なり。追手なる故、大しては船揺れず。右手の方に珍奇なる小島四、五を見る。例に依て船長室へ行て遊ぶ。川島氏、頻に描く。午後、水泳す。西の水平線下に真赤の太陽が落ちると、十五夜の名月は明るく銀波に砕く。国を遠く離れて行くを思へば夢幻の境を行く如し。水平線下にアラビアの砂漠を想像して感慨無量なり。後甲板にて小concert開かる。小供など歌ふ。あまり面白からず。船は絶へ... -
1924(大正13)・12・9 アデン湾―紅海
~孝吉の日記~今日は神戸出帆より一ケ月を過ぎぬ。印象は多く永きやうなれど、又、夢の如く毎日雲と波とを見て過ぎ去りぬ。快晴。午後二時頃、Aden沖通過。突□□荒寥たる岬を見る。雄大殺風なる。遠く来たりしを覚ゆ。夕、水泳す。夜八時、姉妹船の榛名丸と行き違ふ。Barで花遊びに加はる。川島氏優勝す。月明白く波頭を輝して、船、波上をすべり行く。追手。十時頃、紅海に入る。