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1925(大正14)・1・2 パリ
~孝吉の日記~金曜。雨。風あり。手紙を書く。どこへも行かず。晩餐は食料店でhors-d’œuvre[*オードブル]のサラド、ブール[*フランスの伝統的なパン]、ロチ[*ロティ。ロースト肉]、ソーセージなど買てきて食ふ。中々うまい。 -
1925(大正14)・1・1 パリ
~孝吉の日記~晴。木曜日。人は皆、新たな服を着て、église[*教会]へお参りする人もある。巴里は休日で静かである。しかし自分等は少しも正月元旦のやうな気分がしない。朝から洋服屋へ行って仮縫を着てみる。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]へ行く。休日で、ferme aujourd’hui[*本日休館]としてある。し方なしにBoulevard St.Germain[*サンジェルマン大通り]の写真屋でEgypt、Greeceのarchaic[*アルカイック期]などの建築彫刻写真百枚程買ふ。素敵なものばかりなんだ。350F(53円)程になる... -
1924(大正13)・12・31 パリ
~孝吉の日記~晴。朝からLouvre[*ルーヴル美術館]へ行く。今日は光線がよいので明るく非常によく見えた。ボチセリー[*ボッティチェリ]、ルイニ[*ルイーニ]、マンテニヤ[*マンテーニャ]、ダビンチ、チチアン[*ティツィアーノ]、ヂオルジオネ[*ジョルジョーネ]、ドラクロア、クールベー[*クールベ]などさすがによいと思った。その深刻な空気は現実を去って神の世界に吾等を引きこむ。希臘ふ。これも近くに大きな普しん中で一時Étoile[*エトワール広場。現在のシャルル・ド・ゴール広場]の... -
1924(大正13)・12・30 パリ
~孝吉の日記~火曜日。雨。朝よりMusée de Cluny[*クリュニー美術館]を見る。十三世紀頃より十八世紀の間の中世の物ばかりである。室が陰気で基督芸術の煩雑、暗陰さがおそう。EgyptやAssyriaなどの明快な力強さ、偉大なる芸術に比して数段、頽廃はまぬかれない。しかし、さすがは古代の芸術で大きいところはある。中にも十三四世紀の石彫建築の装飾など我藤原朝の石仏を思ひ出さしめ又Roman Antique[*ローマの古代美術]精神も存して偉大であった。Muséeの庭にもgothic[*ゴシック様式]の石彫の破片や、... -
1924(大正13)・12・29 パリ
~孝吉の日記~快晴。月曜日。朝からLloyds and National Bankへ行く。帰りOpéraから歩く。種々の店をのぞいて、セイヌ川端のBon Marché[ボン・マルシェ。百貨店]をあさって帰る。午へよせてもらう。一家皆愛想よくもてなされるのはうれしかった。壁には沢山の現代画がかけられて大なる展覧会のやうである。中にもルノアールの二点、フリエース、マイヨール彫刻など、この位のよい出来は日本へは来ない。外にマチス、ブラマンク、カモアン、オットマン、マルケなど出来のよいのが多かった。美術複製など取り出さ... -
1924(大正13)・12・28 パリ
~孝吉の日記~日曜日。午前、手紙をかく。午後、S.Germain[*サンジェルマン]通のtailleur[*仕立て屋]で洋服をあつらえる。夜、Saint Michel[サン・ミッシェル]散歩。 -
1924(大正13)・12・27 パリ
~孝吉の日記~土曜日。雨。午前、St.Germain[*サンジェルマン]通を散歩。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]へ行く。初めて絵画室を一覧した。もう何と云ってよいかわからない。あまりに圧倒されるやうで息苦しく迠古大家、レンブラント、ドラクロア、ミレー其他、深刻で自然の表面を走て居ない。今日は自分にとって記憶すべき幸福な日である。 -
1924(大正13)・12・26 パリ
~孝吉の日記~正午、hotelを出でMétroでPorte Maillot[*ポルト・マイヨ]下車。日本人倶楽部[*Cercle Japonais]へ行。やはり日本料理がうまい。それより日本大使館へ行き、タクシーでGaleries Lafayette[*ギャラリー・ラファイエット。百貨店]へ行。夕暮の美クシイ賑ひは、めまぐるしい光景だ。一度帰館後、Montmartre[*モンマルトル]のバルタバラン[*Bal Tabarin。キャバレー]でdance hallを見る。こゝも亦、華美な歓楽境を現出する。豊満な肉的のダンサーの体躯は男を魅惑、悩殺する。商売屋のda... -
1924(大正13)・12・25 パリ
~孝吉の日記~木曜日。今日はクリスマス。朝からSt. Sulpice[*サン=シュルピス教会]の荘厳な鐘がひびく。朝は手紙を書く。晝食として荘厳な讃美歌がひびく。やっとの事で外に出てtaxiでCafé Wepler[*ウェプレール]に茶をのむ。中はまばゆいやうな電気で美くしい。hotelへ一度帰て支那料理へ行く。夜は手紙を書く。 -
1924(大正13)・12・24 パリ
~孝吉の日記~曇。午前、すぐ一町[*109メートル]程のMusée du Luxembourg[*リュクサンブール美術館]へ行く。こゝは十九世紀近代の絵画彫刻が陳列されてゐる。Louvreの古代芸術に讃嘆した自分は近代の芸術にあまり感心もしない。さすがCézanne、Renoir、Manet、Matisse、Gauguinなどは自然の真にふれてゐる。けれど他の大きさばかり、唯の磨きあげた表面の浅い技巧ばかりは少くとも推古奈良の芸術を知って居る自分を引きつける何物をも持たない。それよりSt.Germain[*サンジェルマン]附近で晝食をかざ...