1925・3・2 イタリア・アッシジ-ペルージャ

~孝吉の日記~

月。曇、後、晴。窓外Umbria[*ウンブリア]の野原がぼんやりとコバルト色に遠くへかすんでゐる。光線がよいので又San Francesco[*サン・フランチェスコ聖堂]へ行ってみる。
昨日より明るくてよく見えた。Giotttoのには一分も動かす事の出来ないやうな近代の絵画の精神がすでに見出される。やはり見てゐる程よくなってくる。
Lower church[*下堂]のPietro Lorenzetti[*ピエトロ・ロレンツェッティ]の聖母は中々美くしい。churchを出ると馬車屋がSan Damiano[*サン・ダミアーノ]へ行かんかと頻りにすゝめるので行てみる。馬車賃だけ損をしたようだが、San Damianoは古ぼけてsimpleな飾りけのない小さな寺だ。Giottoかと思ふ美くしいよい壁画が二面程ある。一つは聖母。なほ二階にも壁画がある。
Santa Chiara[*サンタ・キアラ聖堂]のfacade[*ファサード]を水彩でスケッチする。午後、画をかく気も進まないので散策する。下にあるSan Pietro[*サン・ピエトロ修道院]のfacadeもがっちりとしてよい。
五時半の汽車に乗る為に停車場へ来たが、汽車が五十分も延着。その間にAssisiの町も暮れて行く空の中に消える。
Perugia[*ペルージャ]
Perugiaへ七時着。hotelの電車に乗る。曲り曲って上って行く。
暗くて何も見えない。Albergo Palazzo[*1]に宿す。
Assisiが田舎だったので、こゝもさうかと思ってゐたが、hotelは宮殿のやうだ。ほっこりとしてゐると、アッシジの山上にたてられた町が夢のやうに浮ぶ。アッシジの町は去る程なほ美くしく頭に残るだらう。

【註】
*1 アルベルゴ・パラッツォ。孝吉が残していた領収書には「Palace Hotel」とある。

サン・ピエトロ修道院(1925年3月2日)=撮影・孝吉

サンタ・クローチェ橋とサン・フランチェスコ聖堂(孝吉がイタリアで買った絵はがきより)

公園からのアッシジの眺め(同)

オリーブ園から見たサン・フランチェスコ聖堂(同)

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