1925(大正14)・1・20~23 パリ

1・20

~孝吉の日記~

火。今日もLouvre[*ルーブル美術館]へ行く。川島さん[*川島理一郎]に来てもらって夕暮、Pont Neuf[*ポン・ヌフ。セーヌ川に架かる橋]端の洋服屋へ仕事洋服を買ひに行く。大きな店でstock[*在庫]の豊富なのに驚く。仕事着150fr。廿三円位。

1・21

~孝吉の日記~

水曜。朝から銀行へ行く。

1・22

~孝吉の日記~

木曜。晴。ConcordeのMusée du Luxembourg[*1]を見る。外国の絵ばかりで見るべき物がない。つまらないものばかりだ。午後、Louvre[*ルーブル美術館]へ行く。さすがによい。Primitive Italy[*2]もPrimitive Flamand[*3]独逸ドイツ派も中々よいものがある。小さい画面に深い神秘な自然がひろがってゐる。

【註】
*1 リュクサンブール美術館。1922年から39年までコンコルド駅そばのチュイルリー公園内に別館があり、外国の現代美術を展示していた。別館の建物は47年にジュ・ド・ポーム国立美術館となり、現在は写真と映像芸術を中心に展示している。
*2 正しくは「Italian primitives」(英語)あるいは「primitifs italiens」(フランス語)。ルネサンスの礎が築かれた14~15世紀頃のイタリア美術とその芸術家たちを指す。最近は「プロト・ルネサンス」「プレ・ルネサンス」とも呼ばれる。
*3 正しくは「Flemish primitives」(英語)あるいは「primitifs flamands」(フランス語)。
初期フランドル派。15~16世紀の北方ルネサンス期にフランドル地方(現在のベルギーとオランダ)に花開いた美術とその画家たちを指す。

1・23

~孝吉の日記~

雨。夜、Casino de Paris[*1]へ行く。Folies Bergère[*フォリー・ベルジェール]などと同じやうに美くしい装飾、衣装は華美をつくしたものである。

【註】
*1 カジノ・ド・パリ。「ミュージックホール」と呼ばれる劇場。1730年頃の建築で、当時は主に、歌と踊りを中心として豪華に演出する「レヴュー」を上演していた。孝吉の日記には記述がないが、一人で訪ねたとは考えにくく、川島理一郎と一緒だったとみられる。川島の1925年の油彩画にカジノ・ド・パリを描いた《伎場の図》(愛知県美術館蔵)があり、この日見た劇場の光景を基にしている可能性は高い。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次