1925(大正14)・1・16 パリ

~孝吉の日記~

金曜。曇。小雨。Musée Moreau[*ギュスターヴ・モロー美術館]へ行ったが閉てゐるのでLouvre[*ルーヴル美術館]へ行く。十八九世紀から近代のフランスのを見る。ゆっくり見てゐるとPoussin[*プッサン]の画の自然の深い美くしさに惹かれる。
Milletを育てたある分子が見出される。
それからMilletの穂拾い[*今では《落穂拾い》と訳される]、Delacroix[*ドラクロワ]のドンファンの難船[*フランス語読みで《ドン・ジュアンの難破》とも訳される]、Courbetの森の争鹿[*《牡鹿の闘い》]、クールベーの画室[*《画家のアトリエ》]、L’Homme blessé[*《傷ついた男》]、La Source[*《泉》]、など皆空気が深いのに感心[*1]。それに比してアングルは表面的でGreeceの内実と重さがないように思ふ。
夜はComédie des Champs-Elysée[*2]へ行く。話がわからないが、さっぱりとした新しいdecoration[*装飾]と所作がよい。

【註】
*1 ミレーとクールベの計5作品は現在、1986年に開館したオルセー美術館の所蔵となっている。
*2 コメディ・デ・シャンゼリゼ。シャンゼリゼ劇場内にあった小劇場。

この日のコメディ・デ・シャンゼリゼのパンフレット。演目は、1923年12月の初演以来、大当たりを取った『クノック』と、『きらめき』だった。いずれもジュール・ロマン(1885~1972)作で、ルイ・ジュヴェ(1887~1951)演出。一座を率い、個性的演技で知られる名優ジュヴェは『クノック』で主演し、その代表作となった。

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