~孝吉の日記~
金。晴、にわか雨。川島[*川島理一郎]、本名[*本名文任]、瀧山[*瀧山源三郎]の三氏とSeine[*セーヌ川]の下流、Rueil[*リュエイユ]へ出かける。川島さんがかつて一夏をこゝに過した思出の地だ。Gare Saint-Lazare[*サン=ラザール駅]から汽車で行く。Saint-Germain-en-Laye[*サンジェルマン=アン=レー]行の四つ目位の停車場である。Seineにそって古風な町がある。川堤を行く。畔で弁当を食ふ。静かな景色だ。通雨がぱらつく。渡守を呼んで中の嶋[*1]へ渡り、カフェーで休む。美くしい新緑がまばゆいばかりだ。
Bougival[*ブージヴァル]へ川つたひで歩く。ゆるやかなSeineの流れにそって美くしい別墅[*別荘]が木立の間に見へる。花も咲いて楽園だ。Bougivalの橋ぎはで写生をやりかけると又、雨が降り出ず。又、カフェーへ逃げこむ。ユーゴースラブ[*ユーゴスラヴィア]の学生のやうなのが、へんな哲学の話を持込む。
写生を一枚やって元のRueilへもどり、帰る。Gare Saint-Lazareへ着くと、郊外へ帰る沢山の若い女達がやいやいとはしゃいで汽車に乗て行く。
【註】
*1 中州。ルノワールら印象派の画家たちがよく訪れたことから「印象派の島」と呼ばれている。