~孝吉の日記~
木。晴後曇。海岸のVilla Nationaleの公園[*1]を散歩。電車でMuseo Nazionale[*2]の一見をする。立派な美術館だ。Romanの彫刻は思た程によくなかった。形は大きくても皆、内精神の抜けたものが多い。よいのはEgypt、Greek、Etruscan[*エトルリア]のものだ。Greek彫刻の中によいtorso[*トルソ。胴体部の彫刻]を見受ける。首はないがVenus[*ヴィーナス]の胴とその衣の美くしさ。Louvre[*ルーヴル美術館]のVenusにまさるとも劣らないと思ふ。
それから美くしいよいポンペイのフレスコが無数にあるのには驚いた。荘厳さはないが静かな平和な暖かさ。その微妙な色調にはまいらされる。
一室にある春画。その題材はつまらないが、それでも中々美くしいtoneを以て描いてゐる。
川島さんともう一度来るので、そこそこで午後二時四十分の汽車でNapoliを去る。窓外、景色平凡。
Rome
Romeに近いて山雲美くし。暮果ゝRome着。
馬車でAlbergo Alexandra[*3]に宿す。
安宿で呑気な家だ。piazza[*広場]に美くしいfountain[*噴水]があり、堂々としたpalazzo[*大きな建物、邸館]があり、Romaの第一印象は巴里を古代化したやうで感じよい。
多年憧れたROMAにゐる事は何とした悦(よろこび)か。
【註】
*1 ヴィッラ・ナツィオナーレ。国立公園。今のヴィッラ・コムナーレ(市立公園)。
*2 国立博物館。1957年に絵画がカポディモンテ国立美術館に移され、国立考古学博物館となった。
*3 アルベルゴ・アレクサンドラ。孝吉が残した領収書によると、Hõtel Pension Alexandra。現在のHotel Alexandra。孝吉のローマの定宿となった。