1925・2・17 イタリア・フィレンツェ―ナポリ

~孝吉の日記~

火。雨後晴、にわか雨。
Santa Croce[*サンタ・クローチェ聖堂]へ行く。案内屋が何々の墓と説明する。大きい寺だが大分修繕されて居る。ダンテ、マキヤベリ、ロシニ[*ロッシーニ]などの墓がある[*1]。沢山の壁画はGiottoやTaddeo Gaddi[*タッデオ・ガッディ]、Daddi[*ベルナルド・ダッディ]、Giottino[*ジオッティーノ]などのものだ。皆相当よい。が破損が甚だしい。Giotto[*ジオット]のものもある部分は後に手を入れたやうな所もある。がResurrection[*Resurrection of Drusiana。ドルシアナの復活]の場面は古色蒼然として非常によいと思ふ。それからBiblioteca Laurenziana[*ラウレンツィアーナ図書館]を訪ねる。十一時から見せるといふので、San Lorenzo[*サン・ロレンツォ聖堂]などを見て待つ。Bibliotecaには古文書、経巻、中にはダンテのビルジール[*2]や、ボカチオの原稿などもある。
階段はMichelangeloの設計したもので、しっかりとした美くしい建築で中々えらいと思ふ。
午後一時四十分の汽車でFirenzeを後に出発する。にわか雨来りて雲険悪。切れ目から時々物凄いような逆光がToscana[*トスカーナ]の平原におちて、チントレットのを目前に見る。川にそって上る。山上の城塞やéglise[*教会]や静かな村落は中々美くしく、宗教画のback[*背景]が至る所に来るが一瞬に過ぎ去るのは残念だ。
Arezzo[*アレッツォ]Cortona[*コルトナ]Orvieto[*オルヴィエト]Orte[*オルテ]など通過。
Napoli
七時、Romaにて乗かへ、Napoli夜十二時着。Hotel Continentalへ泊る。部屋がないので自分だけ小さなbain[*3]を造りかへた部屋で一夜をすごす。岩田さん[*岩田豊雄]は隣のHotel Vesuvio[*ホテル・ヴェズヴィオ]でとまる[*4]

【註】
*1 正しくは、ダンテ分は墓ではなく記念碑。ダンテは出身のフィレンツェを永久追放され、墓は死したラヴェンナにある。
*2 古代ローマの詩人ウェルギリウス。ウェルギリウスが登場するダンテの『神曲』を指しているみられる。『神曲』の自筆原稿は現存せず、たくさんの写本がある。ラウレンツィアーナ図書館は複数の写本を所蔵する。
*3 風呂。「浴室」の意味で使ったとみられる。

*4 残っていた領収書によると、翌日は岩田もHotel Continentalに合流したとみられる。

孝吉がこの日に車窓から撮ったとみられる夕暮れのトスカーナ。街中に育ったゆえに穏やかな田園風景への憧憬を抱き、トスカーナを行き来するたび絵の題材を見た。

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