2025年– date –
-
1925・2・20 ローマ
~孝吉の日記~金。晴。早速、午前、Vatican[*ヴァティカン]へ電車で行く。Piazza S.Pietro[*サン・ピエトロ広場]のオベリスクと勢よく水を噴く二つのfontana(噴水)は大きなdoric[*ドーリア]式の円柱の立ちならぶ円形のcolonnades[*列柱]と共に壮観だ。Vaticanの西北の端の入口から入る。大きな宮殿で立派な所もあるが、王[*教皇]の無趣味の豪華が建築をいやなものとしてゐる所が多い。つまらないものを沢山陳の追想をさまたげるが、列柱の上に残された一capital[*柱頭] のdecoration[*装飾... -
1925・2・19 イタリア・ナポリ―ローマ
~孝吉の日記~木。晴後曇。海岸のVilla Nationaleの公園[*1]を散歩。電車でMuseo Nazionale[*2]の一見をする。立派な美術館だ。Romanの彫刻は思た程によくなかった。形は大きくても皆、内精神の抜けたものが多い。よいのはEgypt、Greek、Etruscan[*エトルリア]のものだ。Greek彫刻の中によいtorso[*トルソ。胴体部の彫刻]を見受ける。首はないがVenus[*ヴィーナス]の胴とその衣の美くしさ。Louvre[*ルーヴル美術館]のVenusにまさるとも劣らないと思ふ。それから美くしいよいポンペイのフレス... -
1925・2・18 イタリア・ナポリ、ポンペイ
~孝吉の日記~朝から名高いAntonio[*1]が訪ねて来る。しかし今度は頼まずに勝手にPompeiiへ行く事にする。勿論その方が安いからだ。軽便。辻音楽師のマンドリンとギタの合奏がうまい。Porta di Nola[*ノーラ門]からruin[*遺跡]に入る。家々は中には美くしいfrescoesやdecorationで装られてゐる。男女の像、神話、魚、獣、風景、樹林。すべて、むっくりとした南国の色彩で古色が何ともいへない。庭や泉や階段、バルコン[*バルコニー]、噴水盤、浴場、temple[*神殿]の列柱、などGreeceとRomanの入... -
1925・2・17 イタリア・フィレンツェ―ナポリ
~孝吉の日記~火。雨後晴、にわか雨。Santa Croce[*サンタ・クローチェ聖堂]へ行く。案内屋が何々の墓と説明する。大きい寺だが大分修繕されて居る。ダンテ、マキヤベリ、ロシニ[*ロッシーニ]などの墓がある[*1]。沢山の壁画はGiottoやTaddeo Gaddi[*タッデオ・ガッディ]、Daddi[*ベルナルド・ダッディ]、Giottino[*ジオッティーノ]などのものだ。皆相当よい。が破損が甚だしい。Giotto[*ジオット]のものもある部分は後に手を入れたやうな所もある。がResurrection[*Resurrection of Dru... -
1926・2・16 イタリア・フィレンツェ
~孝吉の日記~雨。月曜日。馬車でCasa Buonarroti[*カーサ・ブエナローティ]へ行く。Michelangeloの寝起したという家だ。小さい彫刻少しとdessin[*素描、デッサン]のよいのが沢山ある。デッサンは中々よい。その他は模写などだ。次にBargello[*バルジェッロ](今のMuseo Nazionale[*国立美術館])へ行く。Donatello[*ドナテッロ]のSt.John[*聖ヨハネ]やその他の作品、ミケランゼロの小さい作品、がある。Donatello 名高い巨匠だが、あまり好きではない。その他、皿、や武器などがある。奥の、... -
1925・2・15 イタリア・フィレンツェ、フィエーゾレ
~孝吉の日記~暴風。Orsanmichele[*オルサンミケーレ教会]の中は中々よい。Orcagna[*オルカーニャ]のreliefがある。外面にVerrocchio[*ヴェロッキオ] 、Donatello[*ドナテッロ]、Lor.Ghiberti[*ロレンツォ・ギベルティ]の作品、Christ、St.John[*聖ヨハネ]などの像がある。それからS.Lorenzo[*サン・ロレンツォ教会]へ行く。内部建築は悪くない。例のMedici[*メディチ家]の墓のある堂はMichelangeloの設計でよい。Mediciの像や月と日[*彫刻《夜》と《昼》]もよい。それでも埃及る如く... -
1925・2・14 イタリア・フィレンツェ
~孝吉の日記~朝、Santa Maria del Carmine寺[*サンタ・マリア・デル・カルミネ教会]へ行く。古朴な寺だが、中は後に手をつけたのでさっぱり見られない。名高いMasaccio[*マザッチオ]のfrescoes from the story of the Apostles[*《貢くないが、内容に於て広大、崇高、壁面の古色の美くしさ、超現実の静寂。いくら記してもあの美くしさはAngelico以外のものは表せない。中にも[*でも] L’Annunciazione[*《受胎告知》]36 Cristo appare alla Maddelena [*《我に触るな》]38 La Depo... -
1925・2・13 イタリア・フィレンンツェ
~孝吉の日記~小雨。金曜。窓外にアルノ河を望んで対岸に古い家並と鐘堂を見る。くたびれてゐるので、Florenceのプログラムなどを作って過す。午後、多年心を去らなかったGalleria Uffizi[*ウフィツィ美術館]を見る。Ponte Vecchio[*ヴェッキオ橋]もよい。多くの天才を集めた古Firenzeの花期を思ふ。Uffizi Gallery[*ウフィツィ美術館]は予期にそむかず渡欧以来の感激の大なる一つであった。Palazzo Uffizi[*ウフィツィ宮]の建築、階段、長い立派なcorridor[*回廊。ドーリア式]はさっぱりとした大... -
1925・2・12 イタリア・ヴェネツィア―フィレンツェ
~孝吉の日記~曇。小雨。木曜。汽船でSan MarcoのPiazza[*広場]へ行く。高いCampanile[*鐘楼]に登て海にかこまれた市街を見下す。壮快。それからPalazzo Ducale[*ドゥカーレ宮殿]に入る。ベロネーズはあまり感心しない。Tintoretto[*ティントレット]一人舞台だ。あまり大きくはないが、Minerva respinge Marte[*《マルスを退けるミネルヴァ》]、Fucina di Vulcano[*《ウルカヌスの鍛冶場》]、三人の裸女[*《三美神とメルクリウス》]、などのよい構図、肉体、色彩。さすがTintorettoと思はし... -
1925・2・11 イタリア・ヴェネツィア
~孝吉の日記~曇。水曜。朝から狭い折れ曲がった街を通てAccademia di Belle Arti[*1]へ行く。街はきたなく貧民窟のやうだが、Venezia情緒が豊かで時々細いcanal[*運河]の橋を越へる時、裏窓に水のゆらめく景色は好きだ。建物もさびてよい味を持ってゐる。Accademiaはさすがによいものがある。Paolo Veronese[*パオロ・ヴェロネーゼ]は大作が沢山あるが、思たより浅い。Tintoretto[*ティントレット]のよいものが多い。Adam et Eve[*《誘惑されるアダムとイヴ》]、Cain et Abel[*《カインとアベ...