2025年1月– date –
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1925(大正14)・1・13 パリ
~孝吉の日記~火曜。曇。午前は室からSaint-Sulpice[*サン=シュルピス教会]を見たところをスケッチ板に描く。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]のSalle des Saisons[*四季の部屋]、Salle d’Auguste[*アウグストゥスの部屋]の羅馬で移転の御馳走になる。沢山食べてうまい。 【註】*1 カモンド・コレクション。銀行家で美術コレクターのイザック・ド・カモンド(1851~1911)がルーヴル美術館に遺贈し、1914年に公開された。同美術館には当時、作家の没後10年を経た作品でないと所蔵し... -
1925(大正14)・1・12 パリ
~孝吉の日記~月曜日。朝から霧が深くてうすら寒い。午後、川島さん[*川島理一郎]とGalerie Barbazanges[*バルバザンジュ画廊]へ行く。Utrillo[*ユトリロ]の展覧会である。味のある地味な落着いた画で、よい感じの展覧会である。中々うまいと思た。それからRue La Boétie[*ラ・ボエシ通り]の画商を見て歩く。ある店の窓でRenoir[*ルノワール]の素描に赤い色彩のよい作を見る。又Rosenberg[*ローゼンベール画廊]でマチス、ブラック、ピカソなどに感心する。Galerie Druet[*ドリュエ画廊]で或... -
1925(大正14)・1・11 パリ
~孝吉の日記~日曜日。晴。朝から一人でMusée Rodin[*ロダン美術館]へ行ったが、午前は閉って居るのでTrocadéro[*1]へ行く。陳列品の多くは中世の彫刻の複製でつまらない。中世基督芸術の陰鬱、煩雑はあまり好きでない上、それがreproduction[*複製]なのでいやな物ばかりである。Cambodia[*カンボジア]、Indochina[*インドシナ]のものに少しoriginal[*原物]があるけれど、それも末期のものが多い。午後になるのを待ってMusée Guimet [*2]へ行く。こゝは思てゐたより立派なcollectionで、... -
1925(大正14)・1・10 パリ
~孝吉の日記~土曜日。晴。濃霧立ちこめる。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]のSalle du Mastaba[*1]、Galerie de Morgan[*2]を見る。Egypt、Chaldea[*カルデア。メソポタミア南東部]のsculptures[*彫刻]、antiquities[*古代遺物]の素敵なのが沢山ある。西洋美術の極致でしかも東洋の美術の唯心崇高を備へ、地味で美術家を悩殺する。あのinscription[*碑文]の一つのかけらさえも、後世の精神から離れた大作より吾々にとっては価値が高い。本館のCéramique Antique[*古代陶磁器]が今日は... -
1925(大正14)・1・9 パリ
~孝吉の日記~金曜。曇晴。曇りのチュイレリー、Concorde[*コンコルド]を一人歩いてPetit Palais[*パリ市立プティ・パレ美術館]を見る。陳列品のうちにはつまらないものが多いが、よいものもかなり沢山ある。ルドン、カリエール、ロダンの素描、シャバンヌの素描、ドニ、メナールなど。特に感心したのはMillet[*ミレー]の小さいpaysage[*ペイザージュ。風景画]一枚、Rubensの小品、Delacroix[*ドラクロワ]小品数点、Courbet[*クールベ]油大作六七点。皆やはり天才といはれるものはdessin[*デ... -
1925(大正14)・1・8 パリ
~孝吉の日記~木曜。晴。中々寒い。川島さん[*川島理一郎]が18 Rue de la SorbonneのHôtel Rollin[*オテル・ローラン] へ移るので荷物など手つだう。大したものではないが、画室付で月に400f。安い。午後、Panthéon[*パンテオン]見物。名高いChavannes[*シャヴァンヌ]の壁画は全体静かな構図でやはりうまい。装飾として写実派よりもよく建築と調和して居る。建築もローマなどの摸倣ではあるが大きな柱が連立する所、痛快、清じょうである。おのぼりの団体となって地下のtombeaux[*墓]参拝。... -
1925(大正14)・1・7 パリ
~孝吉の日記~晴。水曜。朝から美術学校近くで絵の道具を買ふ。422fr。それからbain[*銭湯]へ行く。2fr70。午後、Louvre[*ルーヴル美術館]の続きのMusée des Arts Décoratifs [*装飾芸術美術館]を見る。中々沢山ある。古代ぎれのよいものが沢山ある。近代絵画の中にはMillet[*ミレー]、Corot[*コロー]、Delacroix[*ドラクロワ]等のよい作品がある。 -
1925(大正14)・1・6 パリ
~孝吉の日記~快晴。火曜。朝からcoiffeur[*床屋]へ行く。午後Musée de Cluny、[*クリュニー美術館]へ行く。陶器の美くしいのが好きだった。Sorbonne[*ソルボンヌ]大学の講堂のChavannes[*シャヴァンヌ]の壁画を見せてもらう。静かに落着いたよい作だと思た。やはり大家だ。Cézanne[*セザンヌ]のやうに時代の先鋒ではないが。Rue de la Sorbonne[*ソルボンヌ通り]に安い画室付のよい部屋があったので川島さん[*川島理一郎]がけい約する。すぐ隣のbillard[*ビリヤード場]へ入る。岩田[*... -
1925(大正14)・1・5 パリ
~孝吉の日記~快晴。朝からbankへ行って帰りにAvenue de l’Opera[*オペラ通り]の本屋へ立寄る。午後、Galerie Marcel Bernheim [*マルセル・ベルネーム画廊]でVan Gogh[*ファン・ゴッホ]の展覧会を見る。dessin[*デッサン]、色彩共にやはり天才だと思はしめる。夜、Chartier[*シャルティエ。大衆食堂]へ行たが満員なので又Duval[*デュヴァル。大衆食堂]で飯を食ふ。Boulevard St.Germain[*サンジェルマン大通り]のcinema[*映画館]に入る。撮影奇抜で面白い。昔のアメリカの列車の光景は... -
1925(大正14)・1・4 パリ
~孝吉の日記~日曜日。曇。川島[*川島理一郎]さんとLloyds Bank[*ロイズ銀行]へ金を出しに行く為busに乗たが、銀行が日曜で駄目な事を思ひ出した。オペラ前からMadeleine[*マドレーヌ]へ歩く。どの店も皆戸を閉程で皆満腹する。Boulevard Madeleine[*Boulevard de la Madeleine。マドレーヌ大通り]、Italiens[*Boulevard des Italiens。イタリアン大通り]などを歩いて帰る。